
この記事は、It's Nice Thatとのパートナーシップにより執筆され、同サイトで最初に公開されました。
立ち上げから10年以上が経ち、Vimeoスタッフピックは動画制作のインスピレーションの源となっています。以下では、選考スタッフとスタッフピックに選ばれた数名の映像クリエイターに、映画業界における3つの重要なイノベーションについて伺います。
2008年以来、Vimeoはスタッフピックと呼ばれるキュレーションプログラムで映画制作を推進してきました。Vimeoのキュレーションチームが厳選した作品の数々は、オンライン上で最も優れたコレクションのひとつです。そのため、スタッフピックは、Vimeoがプラットフォームを提供する世界中のクリエイターやフィルムメーカーにスポットライトを当て、情熱的な視聴者を手繰り寄せる役割を果たしています。
Vimeoはサービス開始から15周年を迎え、スタッフピックの過去・現在・未来を見つめるキャンペーン「Generation Vimeo」を展開しました。対面上映会やインタラクティブなミックステープに加え、It's Nice Thatと提携して、過去10年ほどで映画制作がどのように変化したかも探究しています。以下で、プラットフォームのリードキュレーターであるアイナ・ピラとメーガン・オレツキーが、キュレーションチームに参加して以来気づいたイノベーションや、このメディアにとって重要なその他の瞬間についての洞察を提供します。
サヨナラ、ゲートキーパー
本来、映画は世界中からさまざまな物語や視点を共有するために使用されるメディアであるはずです。ただし、このメディアの歴史の大部分において、実際はそうではありませんでした。最初のカメラの登場とハリウッドの黎明期以来、価値があると見なされてきたストーリーは、主に白人と中流階級のものでした。しかし、アイナとメーガンはVimeoで活動してきた期間に、数え切れないほどの新しい視点(以前は映画業界から排除されていたもの)がプラットフォームで急増するのを見てきたと話しています。テクノロジーの進歩により、映画制作の芸術性が着実に民主化され、参入障壁が低くなったことで、主流から外れたフィルムメーカーがオンライン上で観客を見つけ、クリエイティブな表現を発信できるようになりました。
その結果、何百もの異なる種類のストーリーがVimeoなどで共有されるようになりました。「業界全体で、包括性と多様な視点をサポートする取り組みにますます注目が集まっています」とアイナは言います。「これは継続的な取り組みではありますが、オンラインで見られるストーリーの種類に大きな影響を与えています。個人の作品でもブランドの作品でも、映像クリエイターは、重要な社会問題や少数派の声に光を当てています。」

「業界全体で、包括性と多様な視点をサポートする取り組みにますます注目が集まっています」
短編映画『How to Get an Abortion(子どもの堕ろし方)』で今年英国アカデミー賞を受賞したSindha Agha監督のように、多くの新興クリエイターが世界の舞台で視聴者を獲得しています。 タイトルが示すとおり、この映画は、十代の少女が敬虔な父親から思わぬサポートを受けながら無事に中絶をする過程を追ったものです。ユーモアあり、哀愁あり、同時に感動的でもある、Agha監督独自のストーリーテリングは、いくつかのスタッフピックにも輝いており、新進気鋭の映像クリエイターたちがこのメディアを使って「ほとんど議論されない物語や視点を掲げる」見事な一例となっています。
アイナは続けて、「私たちのキュレーション理念の大部分は、新しい才能の発見とサポートです。このような立場に立てるのは本当に光栄であり、このようなオリジナルストーリーが人々との大きなつながりを生むことは、私たちにとっても励みになります。今年だけでも、サバナ・リーフ監督とA.V. ロックウェル監督が長編デビューを果たし、大きな話題を呼びました。また、初期のキャリアをVimeoで培ったカルロス・ロペス・エストラーダ氏やヒロ・ムライ氏は、文化を形づくる作品を作り続けています。今後も彼らの表現が称賛されることを楽しみにしています。」と話します。
「この仕事を通じて触れることのできる作品の幅を考えるとワクワクします。かなりすごいことですね。」
映像クリエイターにとって、スタッフピックプログラムは才能ある人材の育成場所であり、クリエイティブなアプローチを磨くためのサポートスペースとしても機能しています。スタッフピック作品は、独自の表現スタイルを開発し、オンラインの視聴者から支持を得て、後にメインストリームで本格的に成功を収めるのに役立っています。たとえば、ドキュメンタリーシリーズの『How To with John Wilson』をこのプラットフォームでスタートさせたジョン・ウィルソン氏や、Maxのウェブシリーズ『High Maintenance』をVimeoチャンネルで誕生させたベン・シンクレア氏やカチャ・ブリックフェルド氏などのクリエイターたちです。
しかし、最近で最も注目すべきは、今では伝説的な監督デュオとなった、ダニエルズの作品です。彼らの映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は、昨年の公開以来、最も多くの賞を受賞した映画になりました。これにより2人はスターダムにのし上がりましたが、2人がこれまで長年にわたりこのようなストーリーを短編形式で語り続けていることを多くのファンは知りません。また、フィルムメーカーのベン・プラウドフット氏も、先駆者でありながら見過ごされてきた女子バスケットボールのルーシー・ハリス選手に関する短編ドキュメンタリー『The Queen of Basketball』でアカデミー賞を受賞しました。社会的弱者や少数派のストーリーを語るという彼の独特のアプローチが、数多くのスタッフピックを通して発展してきた過程を辿ることができます。
新時代のブランドストーリー
かつてはテレビCMしかありませんでしたが、今ではクリエイティブなブランドストーリーの世界が存在します。短編ドキュメントから長編映画まで、ブランドとメディアの関わり方は以前とは全く異なるものに変化しています。メーガンは、「ブランドコンテンツ部門での最高の映画とは、企業が依頼した映像クリエイターの才能や、サポートしたいと考えている大義に対して、企業が権威をあまり主張しないものです」と言います。「動画制作をアウトソーシングする際に、このアプローチを採用するブランドが増えているようです。」

そうすることで、期待を覆すだけでなく、アーティストをサポートし、メディアの拡大にも貢献します。たとえば、サンフランシスコを拠点とするクリエイティブスタジオEven/Oddがフィンテック大手Square向けに制作した短編映画シリーズ『For Every Dream』を例にとると、中小企業経営者の個人的な成功体験をテーマにしたこのシリーズは、5つのVimeoスタッフピックとベスト・オブ・ザ・イヤーを含む、著名な賞をいくつも受賞しただけでなく、アカデミー賞の候補にもなり、ブランド映画として史上初の快挙を達成しました。重要なのは、これらのドキュメントはSquare用に作成されたものですが、ブランド独自のストーリーはほとんど含まれず、代わりにあらゆる困難を乗り越えて成功した他のビジネスにスポットライトが当てられている点です。
「ブランドコンテンツ部門での最高の映画とは、企業が依頼した映像クリエイターの才能や、サポートしたいと考えている大義に対して、企業が権威をあまり主張しないものです。」
ブランドは映画の中で実際のストーリーを擁護するだけではなく、依頼したアーティストにコントロールを委ねることで、ブランド映画制作により実験的なアプローチを採用し始めています。デンマークの家具ブランドTaktが、環境保護に関心を示す顧客への感謝のメッセージを作成するために、地元のディレクターBine Bach氏に指揮を委ねたことがその一例です。
Taktは、Bine氏が「わざとらしい」と感じた、映画の台本を含む企画書全体の手直しを任せることにしました。Bine氏は、カメラ内のトリックを使用して視聴者を楽しませながら、Taktが言いたかったことすべてを伝え、シンプルで遊び心のある数シーンで1分間の動画を作成しました。「Taktは、私たちにクリエイティブな自由を与えてくれて、とても信頼できました」とBine氏は振り返ります。「そのおかげで全体のプロセスがとても楽しくなり、最終的により良いものが得られました。Taktは、『家具を作るのは私たち、映画を作るのはあなた』という姿勢で、私たちの仕事をさせてくれたのです。」
このようなコラボレーションは、ブランドのストーリーテリングの未来を象徴しています。つまりそれは、経済的利益よりも創造性と信頼性が優先され、たとえそれが自分のものではなくても、映像クリエイターが自分の作品に自分の印を刻むことができる未来です。メーガンは、「これらは、アーティストがより自由な発想を追求し、自分たちの声に忠実なアイデアを発信できるようになったことを示唆する非常にエキサイティングな例です。」と述べています。
「『家具を作るのは私たち、映画を作るのはあなた』という姿勢で、私たちの仕事をさせてくれたのです。」
次世代の映画
テクノロジーがフォーマットとしての短編映画の復活に重要な役割を果たしたのと同様に、テクノロジーはメディア自体の変化の原動力でもありました。AIや3DゲームエンジンからAR、VR、360度動画まで、スタッフピックの映像クリエイターは常に新しいテクノロジーを試しているとアイナとメーガンは指摘します。このテクノロジーの進歩は、映画の制作、編集、配信の方法を変えるだけでなく、クリエイティブな可能性の全く新しい世界への扉も開きました。たとえば、AIプログラムは、スクリプトやストーリーの作成や、小道具や背景のゼロからの作成、映画の主要なビジュアルとして使用する画像の生成など、幅広い目的で使用されています。
後者のAIに映画のビジュアルを主導させることは、実験的な制作を行うクリエイターにとって、特に興味深い分野であることが明らかになっています。スタッフピックに選ばれた2022年のショートフィルム『Hairy Pouter』では、クリエイティブディレクターで映像クリエイターでもあるクリス・カルボーニ氏が、AI画像生成ツールのMidjourneyを駆使して、祖母のリリアンさんによる『ハリー・ポッター』第1巻のナラティブレビューに映像で演出を加えています。祖母の言葉を編集せずにそのまま使い、プログラムがリリアンさんの言葉と連動して印象的なアートワークを作成した結果、映画が進むにつれて「ますます幻想的な」画像が生成されていきました。「Midjourneyを使用するという決断は、ストーリーテリングの基礎でした」とクリス氏は語ります。「今私たちは、資金や機材、高額なトレーニングなどに手が届かず、これまで表現の機会を逃していた人たちが、独自のビジョンを世界と共有する力を得た、芸術的創造の新たな波の始まりにいるかもしれません。」
一方で、ミゲル・オルテガ監督などは、プロジェクトのプリプロダクション段階で役立つ機能を活用しています。受賞歴のあるアニメーションホラー映画『The Voice in the Hollow』(スタッフピックも獲得)では、録画を始める前にUnreal Engineを使用して企画作成を行いました。「Unrealは最終レンダリングのためだけのものではありません。撮影を計画するための強力なツールでもあります。このエンジンを使用してカメラアングルを決定し、大まかな動画編集を作成することで、明確なビジョンを持ってライブアクションセットに着き、効率を最大化し、コストのかかるミスを減らすことができます。」と説明しています。「所定の期間内(10ヶ月間)で映画を完成させるには、Unreal Engine の圧倒的パワーがなければ不可能で、おそらく何年もかかっていたでしょう。」

これらのツールは強力ではありますが、最終結果が注目に値するものになるためには、人間味とビジョンによってそのようなテクノロジーを使うバランスをとる必要があると、アイナとメーガンは主張します。「スタッフピックで認識されてきた映画の一部にAIを使用しているものは、AIを頼りにするのではなく、踏み台として使用しています」とメーガンは言います。「とは言うものの、最初のAI映画が私たちのコンピューターの画面に現れた瞬間から、チームは目立たない形で新しいテクノロジーを使用している映画を探していたと思います。スタッフピックに選ばれる条件は、クリエイターの痕跡と独創的なアイディアが、作品の機械制作部分と共にはっきりと残っている作品です。」
「スタッフピックで認識されてきた映画の一部にAIを使用しているものは、AIを頼りにするのではなく、踏み台として使用しています」
前進していくなかで際立つには
映像業界で多くのイノベーションが起きているなか、多くの映像クリエイターが時代の先を行く方法に頭を悩ませているかもしれません。Vimeoでキュレーターとして長年培ってきた経験をもとに、アイナとメーガンからアドバイスをもらいました。「創造性とコミュニティが重要です」とアイナは言います。「語られるストーリー、そのストーリーを伝えるためのツール、またはストーリーを他の人と共有する手段などに関わらず、映像クリエイターは自分の作品がどのように目立ち、視聴者とつながることができるかについてクリエイティブに考える必要があります。また、Vimeoで最も優れた作品は、どれも孤立状態で作られたわけではありません。これらの作品は、オンラインやIRLのコミュニティ内で活動する映像クリエイターたちが、互いに学び、持続可能な実践を構築し、アイデアを推進させるなかで生まれるのです。」
そして、作品を適切な人に見てもらうという点について、メーガンはこう付け加えています。「人間のプログラマーやキュレーターの目に留まるようにするには、視聴者を集めましょう。私が『人間』という言葉を使うのは、インターネット上には膨大な量のコンテンツが溢れていて、アルゴリズムが映画が映し出す人間の経験を理解して正確に評価することはできないからです。」