グローバルなコーヒーブランドが動画で全世界規模のトレーニングを実現する方法

Eric Pokorny氏がStarbucksで初めてグリーンエプロンを身に着けたのは、27年前のこと。当時はまだ新人バリスタで、この先どんな道が待っているのか、まったく想像もつきませんでした。それから年月を経た今、Pokorny氏はStarbucksのメディアコンテンツマネージャーとして、ブランドの主要なトレーニングや、企業向け学習プログラムの一部のためのビデオや写真コンテンツの制作・配信を担当しています。

世界中のパートナー(従業員)に対するトレーニングプログラムを魅力的な教育体験に変えるために、チームは主なメディアとして動画を活用しており、世界中の新人バリスタに魅力的なバーチャルトレーニング動画を提供しています。「我々は巨大な組織で、世界中の35万人以上のパートナーにコンテンツを提供しています。動画のホスティングと展開にVimeoは欠かせません」とPokorny氏は説明します。

タイムゾーン、大陸、言語を超えて何千人もの従業員のためにバーチャルトレーニングを合理化・標準化するという課題に取り組む中で、Pokorny氏は動画コンテンツを管理・配信するための一元的な情報源を持つことの重要性をすぐに認識しました。2020年以降、その重要性はさらに増しています。「7年前にデジタルトランスフォーメーションを開始しました」とPokorny氏。「現在は、マスコミュニケーション、ライブストリーミング、そして全員に情報を提供し続けることへの注力は、パンデミックによって一気に急増しました」

Pokorny氏のチームは、世界中の従業員向けにバーチャルトレーニングを最適化・改善していく過程で、さまざまな学びを得てきました。ここではその一端をご紹介します。


Starbucks 企業概要

業種: 小売(飲食・飲料)

本社所在地: 米国ワシントン州シアトル

従業員数: 349,000人

店舗数: 33,295店

ナスダック上場: SBUX

バーチャルトレーニング戦略:

  • ライブ + オンデマンドコンテンツ
  • モバイルとデスクトップに最適化
  • 教材・研修コース
  • 一元化された動画コンテンツライブラリ
  • コンテンツ開発とインタラクティブ学習用に動画からGIFに変換

目的にかなったメディアを活用する柔軟なアプローチ

Starbucksは、従業員向けトレーニングの企画・制作・配信に動画を本格的に活用することを決めた際に、楽しく学べて最後まで飽きずに取り組める魅力的なオンボーディング体験のデザインを目指しました。

その目的に向け、グローバルパートナーに最高のサービスを提供するために、以下を含むいくつか重要なポイントがありました。

  • 信頼できる単一の情報源:トレーニング動画をどこからでも保存・管理・配信できる一元的な仕組み
  • コンテンツ管理を自在に:動画の差し替えや更新がアセットライブラリ全体にリアルタイムで反映
  • デバイスを選ばないプラットフォーム:デスクトップでもモバイルでもシームレスに動画再生
  • 強固なセキュリティと権限管理:指定したユーザーのみに動画を公開可能
  • 詳細な動画分析:視聴状況やエンゲージメントを測定

Pokorny氏のチームはユーザーレベルの動画分析を行うことで、個々の従業員が動画をどの程度視聴したかを確認でき、業務を成功させるために必要な情報が確実に伝わっているかを確かめることができます。最も視聴された動画の完了率は約90%に達しており、動画が研修の受講者にとって魅力的なメディアであることが分かります。

「パートナー(従業員)たちが、動画を通じて伝えている情報をしっかり理解してくれていると確認できることがとても重要です。視聴完了率が90%と表示されていれば、最後まで動画を見てくれたんだな、と分かります。」


トレーニングのヒント

動画の締めくくりに、凝ったフェードアウトや長いエンドスレート(※動画の最後に表示される画面)を入れるのは避けましょう。

「数年前から、動画の最後はシンプルに終わらせるようにしています。フェードアウトも余白も、何も入れません」と話すPokorny氏。長めのクレジットや法的表記が流れるあいだに視聴者が離脱してしまうのを防ぐためだということです。「そうすることで、実際の視聴完了率がきちんと見えるようになるんです。」


急成長とともに必要となるプロセスの維持

数万人規模の従業員にトレーニングを提供するには、膨大な量のコンテンツが必要です。そしてそれらのコンテンツは、定期的に管理・更新・再配信されなければなりません。あまりにも多くの要素が絡み合っているため、全体を把握するのはとても難しいことです。

「『Eric、あの2001年の動画ってまだある?』と聞かれて、『ええと、このハードディスクかな?いや、あっちのハードディスクかも…あ、共有フォルダもチェックしよう』という感じで探しまわることが何度もありましたよ」とPokorny氏は笑いながら振り返ります(こんな経験、読者の皆さんにもあるのでは?)。

こうした手間を解消するには、すべての動画コンテンツをひとつの場所に集約し、いつでも簡単にアクセス・更新できるようにすることが不可欠です。Starbucksのチームは、早い段階でそれに気づいていました。「私はこれを『デジタル衛生管理』と呼んでいます」とPokorny氏。動画が常に探しやすい状態に整理されているよう、日ごろからチームで意識し取り組んでいるそうです。

「動画って、いろんな場所に置かれがちですよね。だからこそ、『信頼できる唯一の情報源』に集約しておくことが大切なんです。もしポリシーや手順が変わって、そのテーマに関する動画を差し替える必要が出てきたとしたら? その動画がどこに共有されたかを把握できなければ、回収して、使用を中止させ、新しいリンクを送り直して――もう本当に大変です」とPokorny氏は続けます。

こうした混乱を防ぐには、適切なプラットフォームを使うことが何より効果的です。「Vimeoのようなプラットフォームがあれば、動画を『信頼できる唯一の情報源』として管理しながら、リンクや埋め込みコードで簡単に展開できます。しかも中身だけ差し替えても、リンクやコードはそのまま使い続けられるんです。ここ数年、どれだけこの仕組みに助けられてきたかわかりません。」

アセット管理は、Pokorny氏のチームが日々取り組んでいる課題の一つにすぎません。チーム全体で、従業員が自分に必要なトレーニングコンテンツを効率的に利用し、評価できるようにしておく必要があります。「動画を簡単かつ綺麗に整理できる『ショーケース』を活用してチームメンバーにコンテンツを提供しています」とPokorny氏。「もしバリスタの基本プログラムに関するすべてのトレーニング動画が、見やすい一箇所にまとまっていれば、プログラムを改訂する担当者は、複数のページを手動でクリックして確認する必要がなくなります。すぐにそのプログラムを見つけて、非常に洗練された視聴体験を自分自身や、そのプログラムを管理している私のチームの他の誰かと共有するだけで済みます。それは彼らの仕事も楽にしてくれるのです。」


トレーニングのヒント

古くなったトレーニング動画を削除する際は、サムネイル画像も更新しましょう。

「動画を廃止する場合は、サムネイルを『本日付で使用終了』といったサムネイルに変更し、その理由を簡潔に説明します。そうすることで、その役割に就いた人や、そのプログラムに取り組む人は、動画をクリックして中身を見なくても、サムネイルから必要な情報を得ることができます」とPokorny氏は話します。

「当社は大量の動画を保有しており、積極的に活用しています。もしこれらすべてが一箇所に、きちんと整理されたフォルダにまとめられていなかったら、すべてを把握し続けるのは不可能だったでしょう。分からなくなると思います。」

Eric Pokorny Starbucks社 メディアコンテンツマネージャー

トレーニングをインクルーシブに

Starbucksのチームは、バーチャルトレーニングで効果を上げるには、誰にとってもアクセスしやすいものにする必要があると考えています。新たに入社する従業員が「ここで働くのが楽しみだ」と感じられるようにするには、自分自身がそのオンボーディング体験に反映されていると実感できることが大切です。そのためには、すべての学習者にとって快適な視聴環境を整えること、そしてコンテンツそのものが、多様な受講者の背景や価値観をきちんと映し出していることが欠かせません。

「インクルーシブであることは、本当に大切です。ときには、一度立ち止まってコンテンツを見直し、『これは全員に向けて語りかけられているだろうか?』と自問するだけでも違います。視聴者を正しく理解し、その人たちが自分ごととして受け取れるように表現することが、本当に大切です。」

「字幕というかたちでアクセシビリティを確保することは、私たちにとって非常に重要です。字幕を選べない動画は、基本的に公開しないようにしています」とPokorny氏は説明します。

最終的な目標は、内容が充実したトレーニング動画を作成し、オーディエンスのニーズに応えることです。Pokorny氏によれば、語るべきストーリーを語るのに必要なのは、誠実さと人間味に尽きるとのこと。

「最近、Starbucksの中でもよく話題になるのが、『人と人とのつながりを取り戻す』というテーマです。これまで私たちが経験してきたことに立ち返り、物の見方を少し変えてみる。そして、そうした感情や気づきを次の制作に取り入れる――そういった姿勢が大切です。人間らしさを忘れずに、ありのままを伝える。それが一番です」とPokorny氏は語ります。


Katherine Boyarsky

Katherineは、ボストンを拠点とするクリエイティブエージェンシー、CXD Studioのライター兼共同設立者です。また、看護師の資格も持っています。ビーチなどの水辺でひと時を過ごすことが大好きです。